母の故郷である、奈良県の吉野町・佐々羅(ささら)という小さな集落で、古い農家を拠点として村おこしを行うプロジェクトを始めました。

子どもの頃、夏休みはいつもこの佐々羅で過ごしました。畑や田んぼ、小川や滝、緑深い山林と集落の風景——。そして、この村のおじさんやおばさん、従妹たち。自然にふれあい、村の人たちに大事にされたあの時間が、僕を育ててくれました。今になって改めて気づいたのは、あの「当たり前」だった日々が、どれほど大事だったかということです。そこには、村の人たちの知恵や技が息づき、物をお金でやり取りするのではなく、人と人とが助け合い、自然と共に生きる豊かさがありました。

お金では得られない幸せがある——
資源を活かし何度でも使う習慣とゴミをできるだけ出さない暮らし。
有機的な自然の恵みをいただける環境や食卓。
便利さをお金でなく知恵を絞って解決させる工夫。
そんな暮らしの中に、僕たちが忘れている幸せがあることに気づきました。

一方で、都市では多くの人が日々の忙しさに追われ、「時間をお金で買う」ことが当たり前の暮らしに変わってしまいました。安さや効率を最優先。安いを理由に大量に購入、消費。使わなくなればすぐに捨ててしまう。そんな生活の中で、本当に大切なものが何かを見失いつつあるように感じます。

ここではお金で買えない幸せがありました。人の温かさ、自然の恵み、手間を惜しまず暮らす知恵。便利さや経済的とは違う、本当の豊かさが息づいていたのです。

しかし今、佐々羅は日本の地方が抱える現実の縮図となっています。空き家が増え、耕作放棄地やそこに群がるように広がる太陽光パネル。そして、吉野の人口は年々減少。村の人の多くは高齢となり、僕の従妹や次世代は都市へ出たまま戻ってきません。毎年15%もの人が減少します。

美しい自然と歴史に恵まれた、名峰桜の吉野山ですら、この状況です。このままでは、かつての豊かな風景も、人のつながりも失われてしまう。そう思い、僕は「ここに村の魅力を取り戻したい」と決心しました。この決心を形にするために、大阪で想いを一つにする友人や僕の農家の叔父たちと一緒に、「ササラクション合同会社」を立ち上げました。

目指しているのは、「田舎を楽しむ暮らし」をテーマにしたリトリート施設——名付けて「田舎活(いなかつ)」です。都市から訪れた人が自然の中で自分を取り戻す時間を過ごせ、都会と田舎を結ぶ場所。田舎の知恵や技、そして人の温もりに触れながら、心の豊かさを感じられる拠点をつくります。

ここでの挑戦は、単なる古民家再生や観光事業ではありません。あの頃の日本が持っていた、お金では買えない本当の豊かさを取り戻す試みです。自然と共生し、人が助け合う暮らしの価値を再発見。そして未来へとつないでいくための地方創生のモデルプロジェクトとして、佐々羅でアクションを続けていきます。